函館地方裁判所 昭和46年(ヨ)33号 決定 1971年4月03日
債権者
国鉄動力車労働組合青函地方本部
右代表者執行委員長
越前谷忠
債務者
日本国有鉄道
右代表者総裁
磯崎叡
送達場所
函館市若松町一二番一三号
日本国有鉄道青函船舶鉄道管理局
右当事者間の昭和四六年(ヨ)第三三号仮処分申請事件について、当裁判所は債権者の申請(申請の理由別紙のとおり)を相当と認め、つぎのとおり決定する。
主文
債務者は、債権者所属組合員が職場において使用占有している更衣用ロッカーおよび事務机引出しに別紙ワッペンをはることを妨害し、あるいは貼付された右ワッペンをはがしてはならない。(新海順次 河村直樹 久保真人)
団結権妨害禁止仮処分申請書
申請の趣旨
債務者は、債権者所属組合員が、職場において使用占有している更衣用ロッカーおよび事務机引出しに当該組合員が団結権行使の目的で貼付したワッペン類をはがすなどして、債権者及び債権者所属組合員の団結権の行使を妨害してはならない。
申請費用は債務者の負担とする。
申請の理由
一、債務者は、日本国有鉄道法に基づき設立された鉄道事業等を営む公共企業体であり、債権者は、債務者の動力車関係職員・労働者をもつて組織する労働組合である。
二、国鉄動力車労働組合中央本部は、国鉄当局の組織攻撃を排除して組織の防衛と拡大を図ることを決定した第二四回定期全国大会(昭和四五年七月開催)の運動方針に基づき、動力車労組組合員たることに自覚と誇りをもつとともに、組合員の意思を結集し団結を強化するという目的のもとに、各職場で組合員が使用占有しているロッカーに、疎甲第一号証のワッペンを貼付するよう各地方本部に指示し、債権者は、昭和四五年一〇月二八日右指示を傘下各支部に伝達した。
三、債権者の傘下支部たる函館支部は、右指示に基づき、昭和四五年一一月一四日支部所属各組合員に右ワッペンを配付し、組合員は各職場で使用占有しているロッカーに当該ワッペンを貼付した。
ところが債務者は、昭和四六年一月二〇日午後六時頃より、管理者等を動員し、組合側の抗議を無視して、各職場のロッカーに貼付されたワッペンを実力をもつて剥ぎとり持ち去つた。
函館支部は、債権者の指示に基づき二月二〇日再度組合員をしてロッカーにワッペンを貼付せしめたが、このワッペンも同月二三日および二四日の両日、前回をうわまわる管理職等の動員により剥ぎとり持ち去られた。
四、同じく債権者の傘下支部たる五稜郭支部は、前記指示に基づき、支部所属各組合員にワッペンを配付し、昭和四五年一一月一日から四日までの間に、各組合員は職場で使用占有しているロッカーに右ワッペンを貼付した。
ところが債務者は、昭和四六年二月一〇日、組合役員および一般組合員の多くが退庁した午後六時頃より、管理職一〇数名を動員し、残つていた組合員の抗議にもかかわらずロッカーに貼付したワッペンを実力で剥ぎとり持ち去つた。
さらに、二月一五日組合員によりワッペンをロッカーに再貼付したところ、債務者は、三月一三日、公安官をバス一台に乗せて五稜郭機関区入口付近に待機させ、無線で連絡をとりながら管理職ら約三〇名を現場に乗り込ませ、ロッカーに貼付してあるワッペンを剥ぎとり持ち去つたのみならず、剥ぎとり行為の間、室の入口に「当局の許しなく入室禁止」の貼紙をし、かつ実力で組合員の入室を排除する等の行為に出た。
さらに同月一五日、支部組合員が団結権は我々の力であくまでも守り抜くことを意志統一し、再々度ワッペンを貼付したところ、三月一九日午前九時四〇分頃より管理職ら一四名程が右入室禁止の貼紙をし、室内から施錠してワッペンの実力剥ぎとり持ち去りを行つた。
五、債務者は、実力による剥ぎとり行為に先立ち警告文の掲示により撤去を求める根拠として、日本国有鉄道法第三二条、職員服務規程第一条、労働関係事務取扱基準規程第一七条および総文第一七八号(二四・七・二通達)をあげている。
六、しかし、債権者のワッペン貼付行動は、最近において国鉄当局の組合組織分断工作が活発となり、債権者傘下支部においても、当局の組合員の家庭訪問によるスト不参加の呼びかけや、その際のくびになるなどという脅迫的言動によつて、一部組合脱退者が発生したり、あるいは動力車労働組合員と脱退者の間で昇給・昇格等で不当に差別を加える等の組織破壊工作に対抗して、組合の組織を防衛し、より団結を固めるため労働者の生存権確保の手段として憲法上も保障されている団結権の行使として行つているものであり、たんなる内部的服務規程や、当局が一方的に制定した労働関係事務取扱規程等に優先することは当然である。
のみならず、ワッペンを貼付したロッカーは、着替えた衣服等の保管の目的で職員にその使用占有が任されているものであつて、一般外来者の目にふれない更衣室・職員詰所等におかれており、かつワッペン自体美観を十分配慮して作られており、ロッカーになんらの損傷を与えることなく剥ぎとりも可能であり、職場環境、業務それ自体にも直接・間接何らの支障をおよぼすおそれもない。
結局、債務者は、前記のようにその根拠をあげてはいるが、それは全くの口実にすぎず、真の意図は、前記のような気狂いじみた行動からも明らかなように組合組織破壊を目的とするものである。
七、債権者組合にとつては、右のような当局の組合組織破壊工作、また合理化による要員の削減問題、さらには春季闘争に直面して、団結の意志を相互に確認し、組織を防衛・強化して当局と対処することが焦眉の急とされ、そのためワッペンの作成・配付にも多額の費用を支出している。
かかる情勢下における債務者の前記行為の組合の団結におよぼす影響はきわめて甚大であり、経済的損失も多大である。
債権者は今後においてもワッペンによる団結権の行使を継続する予定であり、団結権妨害禁止の訴訟を提起すべく準備中であるが、本訴の確定をまつていては、組合の団結および経済に回復しがたい損害を被る。
よつて本申請におよぶ。